猫とはたらくvol.02「自由な風の吹くオフィスに、猫は集いて人も集いて」
前回から1年以上たってしまいましたが、じわじわと続いております。
「猫と一緒にはたらける職場」を訪問し、読者への猫分を補給とともに、猫とはたらく職場が生まれた経緯やハウツーを知る、そして猫と歩む人生のヒントが見つかることを企図したシリーズ「猫とはたらく」。第2回目は品川区西五反田の「みんなのマーケット株式会社」であります。オンラインでハウスクリーニングや引っ越しのような、出張・訪問サービスを依頼できる「くらしのマーケット」を運営している会社です。
そのオフィスにいる猫の名は、雄猫のジャンゴ(Django・写真右端)と雌猫のシー(C・写真左端)。お察しの通り、名前の由来はともにプログラミング言語であります。山手通りを挟んで、みんなのファストフード・ゆで太郎西五反田本店の向かいに位置するオフィスへと足を運び、広報担当の小滝さん(写真中央左側)とテクノロジー本部の戸澤さんに、猫オフィスにまつわるお話を伺ってきました。
秋田で保護された2匹が会社に来た日
ジャンゴとシーが「みんなのマーケット」へ来たのは創業から約3年を経た、2013年の末ごろのこと。社内で「会社で猫を飼おう」という話が起こったタイミングとほぼ同じくして、戸澤さんのご実家の近所で捨て猫が保護されたという連絡が入ります。そのとき保護された6匹の猫のうち、2匹が会社へ、1匹は代表取締役の浜野さんの実家へと引き取られることになりました。当時のオフィスは代々木上原にあったマンションの一室で、ペット可のメゾネット物件。生まれたばかりだった2匹の子猫は、上へ下へと自由に闊歩していたといいます。
粉ミルクの時代から離乳食へ、そして徐々にキャットフードが食べられるまでに成長した2匹の名前が決まったときのことを、戸澤さんは語ってくれました。
ITスタートアップなので、技術に関係する名前がいいんじゃないかと、例えばプログラミング言語の名前などから、みんなで候補を出し合い、最終的に当社でよく使っているDjango(ジャンゴ)という技術とC言語とが残りました。「Djangoは雄っぽくて、Cは雌っぽい名前だよね」と、皆の意見が程よくまとまって「これだね!」という感じで、パッと決まりました。
代々木上原から渋谷を経て、現在の五反田へ
その後、会社の業績拡大にともなって、2014年の3月にオフィスは渋谷の桜丘町へ。特別に「猫のいるオフィス」と宣伝したわけではありませんが、コーポレートサイトのオフィス写真にさりげなく猫がいる会社として、徐々に猫好き認知が広がっていきます。そして2015年の11月には、さらに大きな五反田オフィスへと移転します。もちろん2匹の猫たちも一緒にお引っ越しです。こちらのオフィスでは社員が帰ったあとも、ジャンゴとシーは会社の中で過ごします。夜、オフィスのドアを施錠する際には、セキュリティ用の赤外線センサーを稼働させるため、2匹は会議室の中に入ってもらいます。つまり、カギ締め時には猫探しが必須。152坪の広いオフィスを探すのはたいへんだろうと思いきや、部長さんの椅子の上だったり、窓際の猫用段ボールベッドだったりと、夜時分のお気に入りの場所はだいたい決まっているそうです。
会社のブログの写真でも、Instagramの写真でも、おなかまでキジトラ柄のジャンゴと腹白のシーは、いわゆる社長猫としてキャラ属性を付与されている様子でもなく、まさに社員の一員として、他の社員と同じように床に寝転がったり、椅子に座ってお昼寝したりしているわけであります。
「猫がいる職場、だから応募した」
そうした経緯で猫オフィスとしての認知が高まり、猫を目当ての1つとして入社する人も増えてきたといいます。今回の取材にご協力いただいた広報の小滝さんもその一人でした。小滝さんが入社へと至ったエピソードを伺いました。
ふとひらめいて、すぐにGoogleで「猫がいる会社」を調べました。検索で出てきたまとめサイトの中から、事業内容が面白そうでイケてる会社を見定めて、そのまとめサイトからコーポレートサイトに飛んで応募しました。それが今の会社だったんです。第一の理由が「猫がいる会社」でしたから、応募の経緯を面接で話しましたが、「えっ!?」というリアクションでした。「そんなに驚くことかな?」と思いましたが(笑)。
なぜ猫で就職先を選んだのか。子どものころから実家で猫と暮らしていた小滝さん。高校2年のときに猫が亡くなり、その後「社会人になったら猫を飼いたい」との思いを持ち続けていました。しかし、いざ就活を始めてみると、社会人としての暮らしと猫との暮らしを両立させる難しさに直面します。それと同時に、就職先に求めるものも変わっていったといいます。
最初は大手のメーカーとか、今の会社とは違う業界や業種を目指していたのですが、全然うまくいかないので、いったん就活を考え直そうと思いました。その結果「1日の中で一番長く過ごすのが会社だろうから、そこに好きなものがいたら、自分が一番気持ちよくはたらける場所だ」と思い至ったんです。それで「好きなもの=猫だ」と思って、その場ですぐに検索して…というのが経緯です。一石二鳥ですよね、猫と一緒に過ごせて、仕事してお金も稼げますからね。
オフィスの日常に溶け込む、猫たちの1日
朝は9時半〜10時ごろにオフィスへと社員が出社します。会議室から解放せられた2匹にとっては朝ご飯の時間です。猫ご飯担当の社員が朝ご飯をあげると、その後はお気に入りの場所でグースカとお休みモードに。オフィスの中をうろうろしたり、仕事の手を止めた社員が猫に寄ってきて遊んだり、遊んでくれそうな人のところに自ら出向いたりと、悠々自適にも見えますが、猫としての仕事をきっちりこなします。
夕方の16時〜17時ごろにお休み処から起き出して、再びうろうろとひとしきり動いたら、18時〜19時ごろに夜ご飯。オフィス内には水飲み場と猫トイレも完備され、こまめに手入れをされている様子がうかがえます。掃除は担当者を決めずに、気づいた人がやる方式を採用されています。長期休暇中の猫の世話なども立候補制。日常の他の業務と同じようにSlackの#generalチャンネルで、猫のことも連絡したり相談したりしているそうです。猫がいることが特別ではない会社ならではの日常光景といえるでしょうか。
オフィスビルの8Fで、ドアはカードキーによるオートロック。猫たちが自らオフィスの外に行くこともせず、脱走の心配はあまりないそうですが、オフィス特有の「脱走事案」もあったと戸澤さんはいいます。
夜、猫たちに入ってもらう会議室の壁面に扉があるんですが、そこがどうしても気になるみたいで、ある日、その扉の中に入ってしまったんです。扉の中に高く積み上げてあった荷物を伝って、天井裏のボードの上に入り込んでしまい、猫を救出しようと天井裏に入った社員がボードを踏み抜いてしまい、大穴を空ける事故がありました。
業務時間中にうろつく猫は、取引先との会議中であろうが、取材対応中だろうが、マイペースを堅持。「会議中を狙ったかのようなタイミングで、会議室の外をのしのし歩いていますね。空気を読んでいるみたいです」とのことで、会議や打ち合わせ中のアイスブレークのきっかけにもなっているそうです。
広報・PRの側面でも猫オフィスは注目を集め、日経MJやWebメディアからの取材が来るほどに。コア事業である「生活関連の出張・訪問サービスのマーケットプレイス」以外に、メディア露出ポイントを有することを強みと捉えて、広報の立場からは今後も猫関連の取材は増やしていきたいと考えています。しかし「猫のいるオフィス」という側面だけでは、会社の特徴を伝えきれないと小滝さんはいいます。
猫は自由な社風の“象徴の1つ”
「みんなのマーケット」の特徴とは、自由な社風。猫が闊歩するだけでもビシバシと伝わってきますが、それはあくまで1つにすぎません。猫が好きな社員がいれば、苦手な社員だっています。全員が全員、猫に夢中な“猫ファースト“というわけではないというところも、自由な社風の表れなのです。
もちろん猫が苦手な社員もいますので、猫をかわいがるもかわいがらないも自由、世話するも世話しないも自由、早く出社しても遅く出社しても自由、在宅しても出社しても自由。その代わりちゃんとやることはやるというのが、会社のカルチャーだと思います。あくまでも、猫も自由な社風の中の一部で、会社の雰囲気を体現してる中の1つの要素が猫なのかなと。そう見てもらえるとうれしいです。その自由も「こういう自由があります!」と声高に吹聴するものではありません。社員のそれぞれが自ら、仕事がやりやすいように手段として自由を選択していった結果、自由を自分で選択できる企業のカルチャーが生まれたのだと思います。
小滝さんと戸澤さんからお話を伺いながら、オフィスで見たのは、気儘に歩き、ときに微睡み、気が向くとじゃらしで遊ぶ2匹の猫でありました。生き物としての仕事を淡々とこなしながらオフィスで暮らす、ジャンゴとシー。その周りには人間がそれぞれの仕事を黙々と進める姿がありました。猫がいるからこういうオフィスになった、ということではなく、元々こういう空気のオフィスだから、猫がいるようになり、その空気感にシンパシーを感じる人間が社員として集まったオフィスなのだと、短い滞在時間ながら感じた次第であります。
お忙しいなか、お時間を頂戴ししましたことを改めてお礼申し上げますとともに、ジャンゴとシーには、仲良くいつまでも健康で暮らせるよう願うものであります。
Source: 猫ジャーナル